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華麗なる??? さて、坂元さんによると、大丸デパートの美術館事業(文化催事)は、大丸が創業以来285年にわたって掲げてきた社是「先義後利」の一環なのだそう。「先義後利」の意味は「義を先にすれば後から栄える」。インターネットで検索しても、大丸といえば 「先義後利」ということで、けっこう有名な社是であるようです。(もちろん、このインタビューも大丸さんの「先義後利」の発想に基づくものでっせ。ふつう老舗デパートの広報の人が、こんな個人のホームページのために時間割いてくれないっつーの) で、大丸ミュージアムが、どうして「先義後利」(=顧客第一主義)の発想なのかっていうと、まず「百貨店の存在自体が、お客さんの生活を豊かに楽しく、そして何か新しい発見のある場所でなければならない」と考えてるから。 「もともとデパートってさ、子どもの頃、行くのが楽しみだった、ってぐらいに、時代の商品、遊び、施設を含めてみんなの注目が集まるようなことをやってたでしょ」と坂元さん。(以下、あらたまった刊行物ではないので、坂元さんのお話は、せチことの会話の中で行われた臨場感溢れる肉声でお送りさせていただきます。) 「エスカレーターを初めて導入したりして、なんか遊園地みたいだよね。商品ひとつ見ても、世界各国から集めた品物を、ミュージアムみたいにいろんなディスプレイで見ることができるし、デパートに一回行けば、家にいてはとても知ることのできないいろんな情報を持って帰ることができる。こういう非日常をお客様に提供することができるのもデパートなんですよ。これが、スーパーやコンビニと違うところであり、百貨店の存在意義のひとつでもあるわけなんですね」というわけです。 大丸では、その「非日常」をお客様に提供する、「新しい情報」の重要な発信基地が、「大丸ミュージアム」と考えているそうなんですが……、「でも、先義後利じゃない発想をすると、今メシを食えなくてどうするんだ、と、文化とか社会還元だとか、そんなことやって、なお何千万円っていう赤字を出して、企業が成り立たないじゃないか、って話がポンと出てきちゃう。そうすると、文化催事は真っ先にリストラの対象になっちゃうのよ」ってことになるわけです。 しかし、他のデパートがバタバタやめちゃってるって時に、最近オープンした札幌店にも見られるように、大丸はミュージアムや美術展のできる多目的ホールを併設したデパートをオープンさせている。ってことは、大丸の「先義後利=文化催事」って、そんなに儲かってるってこと? とミもフタもない質問をすると「文化催事では儲けはないよ」とサラリ。 「昔も今も、文化催事ではゼンゼン儲けてない。だから予算化するわけ。要するに、販促費というか、運営費をくんで、その範囲内にできればいい、という考え方。で、それが赤字になって予算を食っちゃうと、みんなイライラするんだけど、たまに大ヒット企画(←記憶に新しいのは「金子みすず展」や「山下清展」など)が出るんですよ。そうすると、展覧会の企画屋さんにギャランティーを全部入場料徴収で補って、装飾費の半分ぐらい出せるものもあるんですよ」ということなんだそうです。 「大丸として理想的な美術展は、その企画で人が呼べて、イメージがあがって、大丸の方針にあった展覧会であることなのね。もちろん、店の意向に合わなかったり、時代の流れに沿ってなかったら断ることもあるし、大丸のオリジナル企画ということで、《実行委員会》作って、自分達の会場で100%やることもある。でも、新聞社や展覧会の企画屋さんがプランしたものは、まず会場がないとできないでしょ。だから、主催者側も会場を必死になって探すわけです。大丸はそんな時の受け皿になるのね。ミュージアムが、東京、心斎橋、京都、梅田、神戸とあるから、けっこう売り込みは激しいんですよね」 なーるほど。「会場がない」っていうのは、本当にそうらしいんですね。先日、聞いた話では、今度、近代のフランス絵画かなんかの展覧会を、「東京都〈現代〉美術館」(〈 〉内せチこ)でやるらしい。理由は都内に「空いてる(適当な)会場がないから」。なんか時代がズレてるのでは? という気がしないでもないのですが……、もし三越でも東武でもセゾンでも開館していれば、こういう時の受け皿になって、こんなトンチンカンなことをしなくてもすんだかもしれない、というわけです。 「ってことは、逆にね、デパートの文化催事というのは、〈場所を貸してるだけ〉、〈儲からない文化催事をやるんだったら、その場所を有効利用して赤字を減らせばいい〉、と、こういう発想だったら、簡単にやめられるんですよ。でも、そんなことしたら、デパートの発信力が確実に弱くなる。情報発信基地をなくすようなものだし、本当にタイムリーにいい企画がきた時に受けることができないんだよね。だから大丸は文化政策としてのミュージアムにこだわるんですよ」 とはいえ、ミュージアムだからといって「美術館」の有り様に縛られない、というのも、ミュージアムが存続している理由だそうで、受け皿としての「ミュージアム」は、お中元の頃にはギフトセンターにもなるんですって。だったら、他のデパートがバーゲン会場で即席の美術展やってるのとあんまり変わらないのでは? と思ったりもするのですが、こういう展覧会は、企画展をやるたびに会場の設営や撤収に莫大なお金がかかってしまうので、かえって自前の専門美術館を持っていたほうが便利なんだそうです。 それにしても、ミュージアムが常設の文化催事場、あるいは多目的ホール、って考え方はものすごく日本独自の発想、というか商売の発想で面白いですね。一般的な美術館などを基準にするとその存在はちょっと特殊だが、逆に日本のデパートの文化催事が歩んできた歴史の中で見ると、それはそれでとても理にかなっているような気がします。 また、こうやって坂元さんの話を聞いて初めて、今まで閉館してしまったデパート美術館って、企画も会期も世間一般の美術館とゼンゼン変わらなかったよなあ、と気がついた。つまり、学芸員のあるなし、とかはあったけれど、基本的にはデパートの中にフツーの美術館がまるまる一個あった、という感じ。中にはデパートが無理して美術館を経営している、みたいなところもあったかもしれない。それじゃあ、景気が悪くなったら「背に腹はかえられない」となっても仕方がないわねぇ。大丸ミュージアムは、従来の美術館ではなく、あくまで「大丸デパート独自」の美術館のあり方を模索した、というのがよかったのかも。 そんな美術館ですから、大丸ミュージアムが目指しているのは「美術に詳しくない人でも気軽に来れて、気楽に見てもらえる企画」。一番重視しているのは「顧客満足」なんだそう。 「たとえば、あの人と会うと、ちょっと賢くなれる、感動する、楽しくなる、って人がいるでしょ。展覧会もそれと同じで、今まで知らなかったことを教えてくれる、気づかせてくれる、っていう展覧会が理想的だと思ってるんですよ。何となく立ち寄ったら、思いのほか感動したり、知的好奇心をかき立てられた、という展覧会ね。だから僕は、お客さんが喜ばないものはやるべきではないし、自己満足のためにやるのなら自分のお金でやるべきだと思う。大丸ではお客さんに〈あなたの好きな作家は誰ですか?〉というようなアンケート調査をいつも行ってるの。別にお客さんに媚びるわけではないけど、時代の流れで人の好みも変わるからね。自分の知ってるアンテナだけで、物事判断しようとしたらダメなのよ。人のアンテナ見なきゃ」 なるほど。私もデパート美術館に期待するのは、今まで見たこともないものを見せてもらうこと。特に、美術初心者の頃は、「へー、こういう作家がいるんだ。こういう作品があるんだ」と、デパートの企画展で勉強させてもらいました。 ところで、デパート美術館といえば、昔よく「シャワー効果」っていうのが言われましたね。美術館に来たお客さんがデパートの最上階で美術展見て、その後、下の階で買い物する、ってやつ。あの効果はホントにあるんですか? ちなみに私は、パートの中の本屋か文房具屋ひやかすぐらいですけど、と聞くと…… 。 「あんまりないよ。お客さんを定点で観察したり、色んな調査をやったけど、わかってきたのは、美術館に来る人は、レストランとか喫茶店に立ち寄るくらい。お客さんの目的は、あくまで美術館でその企画展を見ることなんですね。そのために半日かけて電車賃使って、入場料を払ってきてくれるわけなんですよ。でも、ついでに買い物を楽しむ人もいます。例えば、香水瓶の展覧会をするとするでしょ。そうすると、お客さんもあらためてお化粧のこととか、香りのこととか考えるのか、たまに売り場に流れる場合もあるのね」という感じなんだそう。また「それとは逆に、買い物にきたお客様が店内放送やポスターでフラリと立ち寄ってくれる場合もある。そこで新しい文化との出会いや感動が生まれてお客様の人生がより豊かになる。これが百貨店ミュージアムのいいところなのよ」なんだって。 「僕らが一番大切にしていることは、招待券で見てくれた人たちの口コミの力なんですよ。やっぱりこれに勝るものはないのね。それに、ホントにありがたいのは、例えば、お客さんに800円の招待券渡したとするでしょ。そうすると、その人は家で決心するわけですよ。その日、午後から予定が入ってるけど、午前中なら大丈夫、だから、早起きして朝一番で大丸ミュージアムに行こう、と。そのために、電車賃往復1000円かけて、展覧会見て、感動して、グッズやカタログ買ってくれたりする。あるいは喫茶店でコーヒーを飲んだり、もしかしたらちょっと買い物しようかな、と思ってくれるかもしれない。大丸のチケットをもらうことによって、わざわざデパートに来ようとする。そうするとさ、へんな話、馴染みになる。人間、行ったことのないところは抵抗あるけど、一度行くと心理的にギューッと距離が縮まるじゃない。それで、何度か行くうちにどこに何があるか、とか、場所がわかって来やすくなるんだよね。」 「だから、今、大丸は有料率が3割ぐらいだけど、たぶん、他のデパート美術館は9割ぐらいだったんじゃないかな。でも、1人でも多くの人にこの企画展見てもらいたい、っていうのはね、お金には換えられないの。普通はこんなに配っちゃったら、有料の人もお金払わなくなっちゃう、なんて言ってプレゼントチケットの量減らしたりする。そうすると、有料率は高いけど、入場者は少なくて、結局収入はそこそこなんですよ。でも、一度来て展覧会を見てもらい、良かったと思ってもらってファンを増やす、ということを考えると、チケットはケチるもんじゃない。美術館のチケットって、もらえば行きたくなるもんじゃない。たった1枚のチケットから〈よし、行くぞ!〉と心を揺り動かしてもらおう、と、そう思っているわけです」 これぞまさしく「先義後利」の発想ですな。美術館関係者でこういう発想してる人はいるんでしょうか? 私は見たことないけどね。 ところで、このコラムのタイトルは「華麗なる??? アートなお仕事」なんですが、大丸で坂元さんのような美術にも関われるお仕事をするには……? なんて聞くまでもないですね。まず、美術館の発想ではなくデパートの発想ができること、つまり「筋金入りのデパートマン」でなければ、このお仕事は勤まらない、ということです。
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